「日米首脳会談では、『対中国』を念頭においた日米の経済連携等の方針が確認された。その一方で、RCEP協定が発効すれば、中国が域内最大の貿易相手国となる。米中対立の中で、今後どのような取り組みを行うつもりなのか」(小西洋之議員)。

 日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が昨年11月に署名した「地域的な包括的経済連携協定」(以下、RCEP協定)の承認について21日、参院本会議で審議があり、小西洋之議員が質問に立ちました。質問の中で小西議員は、RCEP協定に絡み、日米首脳共同声明、TPP11、日米貿易協定およびFTA等のテーマについても取り上げました。

■RCEP協定

 RCEP協定について、小西議員は(1)協定参加国のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の水際対策(2)本協定が日米2国の対中政策に与える影響(3)日本企業のサプライチェーン継続への影響(4)協定締結までに時間がかかった理由(5)本協定とインドの関わり(6)協定の効果に対する国民の実感(7)日本の農産品への影響(8)今後の協定ルールの形成――などのテーマについて茂木外務大臣らをただしました。

  1. 日本のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)水際対策

     COVID-19(新型コロナウイルス感染症)水際対策に関し、日本の新型コロナ累計感染者数が、RCEP協定加盟15カ国の中で何番目かを小西議員が問うたところ、加盟国中「3番目」であることを茂木外務大臣が明らかにしました。

  2. 本協定が日米対中政策に与える影響

     日米首脳共同声明では「ルールに基づく国際秩序に反する中国の行動への対処」が基底となっていたのに対し、本協定が発効した場合、日本にとっては中国が、域内最大の貿易相手国となる点を小西議員は指摘。日米首脳会談で確認された「対中国」を念頭においた日米の経済連携等の方針とRCEP協定との整合性、さらには、「自由で開かれたインド太平洋」とRCEP協定との関係についてただしました。これに対し茂木外務大臣は、「(協定が)地域の望ましい経済秩序の構築に向け重要な一歩になり、『自由で開かれたインド太平洋』を実現していく上でも重要だ」と答弁しました。

  3. 日本企業のサプライチェーン継続への影響

     政府はRCEP協定の意義の一つとして、日本企業が中国をはじめとするRCEP加盟国に持っているサプライチェーンの効率化を挙げています。他方で米国のバイデン政権はサプライチェーンを含めた「脱中国」を目指し、日米首脳共同声明でもこうした方向に日米が「連携して取り組む」と確認されています。小西議員はこの2つ約束の整合性について尋ねるとともに、日本が今後、企業のサプライチェーン継続のためにどのような取り組みを行うのかただしました。これに対し梶山弘志経産大臣は、日米首脳共同声明に関しては、協力の具体的な中身について今後、実務者間で「協議していく予定」であるとのみ答弁する一方で、サプライチェーンの強靭化については、RCEP協定発効にともなう関税撤廃やルール整備などにより面的な事業環境の整備が促進される見込みだ、と答弁しました。

  4. 協定締結までに時間がかかった理由

     RCEP協定の締結交渉が、2012年に当時の民主党・野田佳彦総理の党内議論を基点に進められてきたものであることを指摘した上で、締結に至るまで8年もの期間を要した理由について、政府をただしました。これに対し茂木外務大臣は「後発開発途上国を含め、制度や経済発展状況の異なるさまざまな国々との間で複雑かつ困難な市場アクセス交渉を行ったため」と説明しました。

  5. 本協定とインドの離脱について

     インドがRCEP協定から離脱したことについての日本政府の分析と、今後インドをどのように再び協定に取り組んでいくつもりか、政府の方針をただしました。茂木外務大臣からは、インドが貿易赤字拡大の懸念や国内事情から離脱に至ったとの見方が示されるとともに、インドのRCEP復帰に向け、今後も取り組んでいくとの答弁がなされました。

  6. 協定の効果に対する国民の実感

     例えば中国、韓国との関税撤廃のスケジュールでは「11年、16年、21年等、長期に渡るものも多くある」ことなどを指摘した上で、国民が協定の効果を実感できるのはいつのことになる見通しか、政府をただしました。これに対し茂木外務大臣は直接答えず「発効後直ちに効果が表れる分野もあると期待される」「まずは協定の早期発効を実現し、その履行確保にしっかり取り組んでいく」と答弁しました。

  7. 日本の農産品への影響

     日本政府がRCEP協定について「『攻めるべきものは攻めて、守るべきものは守る』交渉結果を達成できた」と述べていることについて、日本の農業などの一次産業が厳しい競争に直面する事実は想定されないのか、政府をただしました。これに対し茂木外務大臣から「いわゆる重要5品目については関税削減・撤廃から全て除外し、その他の品目の関税撤廃率は近年締結された2国間FTA並みの水準とした。したがって国内農林水産業に対する特段の影響はない」との答弁がなされました。

  8. 今後の協定ルールの形成

     今回の協定では、物品貿易だけでなく、さまざまなルール分野における合意がなされている一方で、国有企業、環境、労働といった分野についてのルールは規定されていません。中国などこれらの分野への取り組みが不透明な国々が参加する中、国有企業・環境・労働についてのルール形成を今後行う方針なのか、外務大臣をただしました。茂木外務大臣は「わが国としてはいずれも重要な分野であると考えており、RCEP協定ルールのさらなる改善・向上に向け引き続き各国と議論を深めていく」と答弁しました。

■ミャンマーの軍事クーデターへの対応

 日米首脳共同声明に絡み、ミャンマーの軍事クーデターへの対応についてただしました。日米首脳共同声明ではミャンマー国軍に対し、民間人に対する暴力の即時停止、民主的な政治体制の回復などを日米で連携しながら強く求めていくとしており、軍事政権への対応や、邦人ジャーナリストが拘束されていることについて、どのような具体策をとるつもりなのか、茂木外務大臣をただしました。

■TPP11拡大について

 今回、RCEP協定に署名した参加国のうち中国、韓国、フィリピン、さらにはタイ、インドネシアといった国々までもが、TPP11への参加について関心を示していると報道されています。このことについて、小西議員は「日本も多大な譲歩をして合意が成立した市場アクセス・ルール面でのTPPのレベルを下げることはあってはならない」と述べ、この点についての確認を茂木外務大臣に求めました。

■日米貿易協定

 今年の3月中旬から4月中旬にかけ、日米貿易協定に基づき米国産牛肉に対するセーフガードが発動されたことについてただしました。日米貿易協定の交換公文にもとづき、今後、米国がセーフガードの発動水準を一層高くする要求をしてきた場合にどのように対応するつもりなのか、野上農水大臣をただしました。また日本の自動車・自動車部品に対する米国の追加関税について、トランプ前大統領との間で日本政府が口約束しか取り付けなかった点について非難するとともに、バイデン政権に対し「追加関税を課さないことを明確に確認する必要があるのではないか」と外務大臣をただしました。

■日本のメガFTA政策(「アジア太平洋自由貿易圏」FTAAPへの取り組み)

 アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を含めた「質の高い、包括的かつより広い地域をカバーする自由貿易圏の実現」に向け、政府が必要な取組を行う方針を示していることに関し、その具体的な取り組みや、今後の基本方針、米中新時代への影響などについて、外務大臣をただしました。

RCEP本会議質問(質問要旨&原稿).pdf

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https://cdp-japan.jp/news/20210421_1225