参院本会議で12月1日、「医療法等の一部を改正する法律案」が審議入りし、小西洋之議員が会派を代表して質問に立ちました。予定原稿は以下の通りです。
医療法等改正案 本会議質問
立憲民主・社民・無所属 小西洋之
医療法等の一部を改正する法律案に対して、会派を代表して質問いたします。
1.経営難の医療機関等への支援
まず、現下の医療機関の経営難の問題について質問します。 医療機関の経営は、昨今の物価や賃金の上昇を受け、大変深刻な状況にあります。一般の病院、診療所、大学病院、公立病院などを問わず、調査によっては7割もの赤字が報告されるなど、現場からは、このままでは立ち行かないと、悲鳴にも似た声が上がっています。
それに加え、医療・福祉従事者の賃上げの停滞も深刻です。産業全体の本年の平均賃金改定率は4.4%ですが、医療・福祉の改定率は2.3%、全体の最低値にして昨年を下回る状況にすらあります。
思うに、診療報酬という公定価格の制約を受ける医療機関の経営は、アベノミクスの失政による悪い円安等の物価高騰の悪影響を最も不条理に受ける立場にあると考えます。
高市政権の発足後、放漫財政による更なる円安等による物価高騰が進行しているところ、これは「高市インフレ」と呼ぶべき人災と考えますが、立憲民主党は、現下の戦後最大級の医療崩壊の危機に対して、事業運営費と人件費の双方をしっかりと支援する経済対策を提言し、そして、この年末の診療報酬の改善と改革の二段階戦略を持って医療を守り抜く決意にあります。
厚労大臣にお尋ねしますが、まず、今回の経済対策、補正予算はこうした医療の経営危機を救うに足りるものなのでしょうか。
また、今後も進行するであろう「高市インフレ」の物価高騰などの事態に対して、2年ごとの改定という構造問題を内在する診療報酬について、医療崩壊を食い止め、医療機関の経営を支えるため、どのような制度面、内容面の改善を図っていくつもりでしょうか。医療現場が安心できる、説得力のある方針の提示をお願いいたします。
更に、併せて、コスト削減策以上に、医薬品産業の衰退、崩壊危機ともいうべき深刻な弊害を生み出している薬価の中間年改定を見直す考えがあるのか、具体的な方針の提示をお願いいたします。
2.新たな地域医療構想の意義と機能について
さて、本法案は、医療、介護の複合ニーズを抱える85歳以上の人口が増加する2040年を見据え、入院・外来、在宅医療と介護の連携を含む新たな地域医療構想による医療提供体制の構築を目的とし、合わせて、医師偏在の是正、医療DXの推進を図ろうとするものです。
私は立憲民主党の厚生労働部門長を務めていますが、立憲民主党は、こうした世界的にも例のない日本社会最大の挑戦の基盤となる本法案に対し、政権奪取を企図する責任政党として、その足らざる点を補い、課題のある点を是正する方針で臨みました。
その結果、衆議院においては、国民民主党と共同の修正提案のうち、われわれが提出した4項目の意義ある修正を実現することができました。賛同して頂いた与党と公明党の皆様にも深く敬意を表させて頂きます。
まず、新たな地域医療構想の意義と機能について質問します。本法案によって、地域医療構想は医療計画の上位概念となり、また、都道府県に対する「高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能」などの医療機関機能の報告制度などが措置されています。
こうした新たな地域医療構想の位置付けと仕組みは、その実行計画たる医療計画の実効性確保にどのような意義や機能があるのか、脳卒中など5疾病・6事業の具体の疾病などの例を用いながら、分かりやすく厚労大臣より説明をお願いいたします。
3.医療計画のロジックモデルの活用の確保について
次に、医療計画におけるロジックモデルの活用について質問します。 衆議院において、5疾病・6事業、在宅医療の医療計画においてロジックモデルの活用を確保すべく、都道府県に対し厚労大臣が必要な助言を行うとする、立憲民主党が立案した本則の条文修正が行われています。
医療計画の策定に当たり、救えるはずの命を救い、守れるはずの健康を守るため、ロジックモデルを活用して適切な医療機能の分化・連携を実現し、実効性のあるPDCAサイクルを確立していくことは、本質的にして極めて重要です。
この医療分野におけるロジックモデルの導入は、2018年の参議院提出法案の循環器病対策基本法の体系で措置され、それが、2021年の医療法等改正案の参議院附帯決議によって医療法に横展開、一般化されたものです。すなわち、診療報酬等と並び立つ良質かつ適切な医療実現のもう一つの柱である医療提供体制構築の要の仕組みは、我が良識の府参議院の取組によるものなのであります。
しかしながら、現行の第八次医療計画でロジックモデルを採用する都道府県は現時点で約半数にすぎず、その活用や水準はいまだ十分ではありません。要するに、多額の保険料や公費を投じた各地域の多くの医療計画が絵に描いた餅などになっている可能性が否定できないということであります。
厚労大臣に質問をしますが、医療計画におけるロジックモデル活用の必要性や意義について説明した上で、その一層の活用を確保するための取組や方針について答弁をお願いいたします。
4.医療計画等を作成する人材の育成について
新しい地域医療構想や医療計画を実効化あらしめるために最も重要なのは、その策定を担う都道府県職員の人材の育成・確保です。医療政策に関する高度な専門性と病院長などとの調整能力を求められる県職員を育成することは全く容易ではありません。
厚労省も民主党政権時代から始まった県職員向けの医療計画作成の研修を行うなどしていますが、本来あるべきは、各大学の医学部や県の関係機関に医療計画を分析・評価するプログラムなどを設けて、将来の医療計画担当職員が地域の医療従事者らとの交流も含めた研鑽を積むといった実効性ある仕組みではないかと考えます。
一方で、衆議院の参考人質疑においては、病院経営者の方より、自らもまた今の学生も、医学部で地域医療政策をほとんど学んでおらず、地域医療構想や医療計画の担い手たる前提を欠き、10年かけてでも教育段階から変えていく必要があるとの意見がありました。
ここで、厚労大臣に質問しますが、医療計画の策定を担う県職員、そしてその実施を担う医師を始めとする医療従事者の人材育成、人材教育のために、文科省や都道府県と連携して、各大学の医学部に医療計画の研究講座を設けるなどの取組を推進していくべきと考えますが、厚労大臣の見解と、これに代わる具体的な問題解決の対案があるかについて答弁を求めます。
5.介護・障害福祉の処遇改善について
医療と連携等する介護、障害福祉の従業員の処遇改善も待ったなしの課題です。
立憲民主党はこれらの職員の処遇改善の議員立法を共同提出していましたが、この医療法改正において、「介護・障害福祉従事者の適切な処遇の確保に係る所要の措置を機動的に講ずる」との旨の修正案に対して、「要介護者等並びに障害者及び障害児のサービス水準の向上に資するため」という施策の大目的に係る再修正などを加えた成案を得ることができました。
厚労大臣にお尋ねしますが、この度の経済対策、補正予算で介護、障害福祉の処遇改善のためにどのような措置を講じたのか、また、それは我々の議員立法の内容のまる飲みではないかとの指摘もなされていますが、全産業の中でも非常に低い賃金水準にある介護・障害福祉事業者の処遇改善の一層の決意について答弁を求めます。
6.医師偏在対策について
医師偏在対策について質問します。
本法案によって、保険料の拠出による重点医師確保区域での手当支給が制度化されていますが、立憲民主と国民民主党は本来の保険給付のあり方に照らし問題があるとして国費支給への修正案を共同提出しましたが残念ながら反映はされず、代わりに、この医師手当事業について、保険者が意見を述べる仕組みの構築の検討規定が修正で入りました。
厚労大臣にお尋ねしますが、医師手当事業は、約一万人が対象になるとされていますが、拠出金の規模、医師一人当たりの単価はどれぐらいになるのか、また、これが将来に拡大していくことがないよう、政策効果を始めとして保険者側の意見が反映される制度運用の確立が不可欠と考えますが、答弁を求めます。
また、この医師手当事業は、厚労省の医療部会でも見解が分かれ、衆議院では、医療部会長の遠藤久夫先生が、保険者が医療提供体制の整備に関与していく意義について陳述されています。
そもそも、こうした保険者が被保険者の代理人の立場で各地域の医療提供体制の構築に参画していくいわゆる「保険者機能」は、民主党政権時代の高確法の医療費適正化計画の体系で初めて法制化されたものですが、厚労大臣は保険者機能の意義と役割の充実・強化についてどのような認識にありますでしょうか。また、この度の医師手当事業の実施や医療DXの推進の施策も踏まえ、保険者機能の一層の強化にどのように取り組むつもりでしょうか、答弁をお願いいたします。

7.外科医等の減少について
一方で、本法案の前提を覆してしまう深刻な医師偏在が進行しています。外科を始めとする特定の診療科の医師の減少です。消化器外科では 20 年後には現在の半分まで減少するとされ、脳神経外科、心臓外科の分野などでも医師の減少が危惧されています。
既に、各地域で適切な救急医療等の確保に問題を生じていますが、まさに、今すぐに、報酬面での優遇や時間外勤務の緩和のためのより強力な医療機能の集約など実効性ある対策が必須となっているのではないでしょうか。厚労大臣の見解と具体的な取組方針を伺います。
8.医療DXについて
医療DXの推進について質問します。
衆議院では「電子カルテの普及率が約100パーセント」との文言が入った修正案が成立しています。この当初案に対して、立憲民主党は当該条文は個々の医療機関に法的義務や経営合理性を度外視した事実上の義務を課すものでもなく、むしろ財政面を含めた政府の支援が読める条文であると立案者に確認をした上で、世界標準レベルのクラウドネイティブの技術の活用を措置する再修正案を共同提案し、成案に至っています。
厚労大臣に質問しますが、医療機関における電子カルテ等の情報化におけるクラウドネイティブ・システムの意義とそうした合理的かつ効果的な医療情報の電子化、更にはその利活用の推進のための支援策のあり方について見解を問います。
9.病床数の削減について
また、衆議院では病床数削減に関する附則の修正案が成立しています。
立憲民主党は、これに対して、医療費削減ありき、数字ありきではなく、各地域の医療の質の確保を前提とし、人口減少に応じた合理的な病床数削減という条文趣旨を立案者に確認していますが、この度の経済対策、補正予算における当該施策に係る病床数削減の規模とその理由・根拠、そして、それが、厚労大臣が衆議院で答弁しているような地域の医療ニーズ等を適切に踏まえたものになっているのかについて、厚労大臣の答弁を求めます。
10.予防医療の推進について
最後に、2040年に向けて医療費の無駄を削減し、可能な限りの保険料負担を減らしていくために、そして、何よりも国民の生命・健康を守るために、これまでと次元の異なる予防医療の推進が不可欠と考えます。
今から10年以上前の2014年に私は厚生労働委員会で、糖尿病などの生活習慣病や骨粗鬆症を例に、国が患者数とその将来予測、健診と適切な治療の実施率等のナショナルデータベースを構築し、医療費の将来予測と病気により失われる社会的な機会費用の将来予測などを行い、科学的な根拠に基づく保険料の統制ある投資を含めた予防医療の推進を提起しました。当時の厚労大臣は、国の科研費調査などに取り組むと答弁しましたが、今ごろになって攻めの予防医療などと言っている現状にあります。
厚労大臣に質問しますが、2040年を見据えた時に付け焼刃の医療費削減では限界があり、保険料負担を軽減するためにも、死亡・重症化を防ぐ予防にこそ医療資源の投資を行うべきであり、受診率の向上や精密検査・適正治療の実施によって、生活習慣病等を中心に、中長期的に医療費・介護費の抑制は可能と考えますが、大臣の見解とこうした予防政策実行のための戦略的取組や方針について答弁下さい。
結びに、立憲民主党は、憲法第13条が定める個人の尊厳尊重、幸福追求権、第25条の生存権の保障等の規定の趣旨を具現化し、かけがえのない生命と健康をともに守り、ともに支え合う、共生社会の社会保障基盤を創る責務を全うする決意を申し上げて、質問を終わります。ご清聴ありがとうございました。